コンバスの神

多重録音というものを、どう聞けばよいのかわからなくなってしまった。

池松宏の新盤にはいくつかの多重録音による楽曲が収められているが、そのなかの一つ、アルビノーニアダージョを聴き、私は身震いをした。大ファンであり、敬愛する池松宏の久しぶりの新譜。だがその曲になぜか私は嫌悪感にも似た感情をいだいた。正確に言うならば曲に対してではなく、その演奏に対してである。
池松氏の演奏は、本当に素晴らしい。ダイナミックであり、一方で襞々の部分まで彼の技巧によって感動的に奏でられている。それは他のどの楽曲にも共通して言える事だ。しかし、このアダージョを私は好んで聴きたいとは思わなかった。
5重奏が同じ固体によって奏でられる恐ろしさ。それはまるで一人の人間から複数の腕が伸び演奏されているかのような一致からきている怖さだと思うが。アンサンブルなのに、相手の心を窺うところなくある意味非常に均一的に演奏されてゆくその様は、異常なまでに悪魔的であり、やってはいけない事のように感じられ、本当に私はこの演奏を生で聴く機会があり得ない事を心から感謝せずにはいられなかった。

5つのアヴェマリア

5つのアヴェマリア

動揺の余り、こうしていつもとは違った文体で書き記しておく事になってしまったが、記録的な意味も含め、記しておきたい。