セーラー服を脱がさないで

知っているだろうか?
エアーサロンパスを吸い込んでしまうと、大変な事になる。
あれは小学校6年生、当時三重県に住んでいた僕は
「夏休みに自転車にテントを積んで、横浜まで走って行こう。」
という親父のトチ狂った提案にのり、二人で漕ぎ出した。


場所は渥美半島伊良湖岬、鳥羽からフェリーで渡り、その場で野宿のテントを張った。
まだ道のりは長い、明日に備えてエアーサロンパスを体に吹きかけた。
テントの中で。


なにせ少年少女合唱団でセーラー服を着て歌を歌っていた程の、文化系男児である。
エアーサロンパスを日常で使うことなどなく、その危険性に関する予備知識などない。
狭いテントの中で、シューっとひと吹き。モロに吸い込んだ。
ヒドイものだった。
「カーッ!ゲーッ!カーッ!」とタンの絡んだおっさんのように、寝付くまで言い続けていた気がする。


最近、職場が沸いている。
近く職場対抗でソフトボール大会をすることになったのだ。
酒の場での話が盛り上がってしまった結果だ。
自腹でソフトボールの球とバットを買いに走った奴もいる。
僕ではない。


そんなことで「練習をしなければ」と、終業後に職場の若手数人でキャッチボールをしてみた。
久しぶりのグローブの感覚を楽しみながらも、ものの30分もするとヘロヘロになり、練習は自然と終了した。
若手といいつつ皆20代後半、着実におっさんに近づいているのだ。
家路につく頃には、鞄を提げるのが億劫なほど腕が弱っているのがわかった。
今更、日ごろの運動不足を嘆いても仕方ない、問題はこの後襲ってくるであろう筋肉痛だ。
立派なおっさんを目指す者として、ここはスマートに対処したい。


僕の部屋にはエアーサロンパスが3つある。
自転車に乗るシーズンがやって来るたびに買い込み、使い切らずに翌シーズンを迎えるのだ。
今年はまだ使っていない、こいつの出番だ。
風呂上り、既に良からぬ兆候を見せる三角筋に、たっぷりとエアーサロンパスを吹きかけた。
その瞬間、部屋に立ち込めたその匂いが、咽喉を焼かれたあの夏を想い出させた。
オチはない。